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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)12720号 判決 1990年8月20日

原告 日本信販信用組合

右代表者代表理事 鎌田成幸

右訴訟代理人弁護士 矢野義宏

同 鈴木泰文

被告 松久董

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、四五三七万五四三〇円及び内金七七万二八八一円に対する昭和五六年一〇月三日から、内金二四九〇万円に対する昭和五五年五月二八日から、各支払い済みに至るまで年一八・二五パーセントの、内金一五七〇万円に対する昭和五五年二月一日から支払い済みに至るまで年一四・六〇パーセントの、各割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

との判決を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  訴外株式会社ばんそう(以下「訴外会社」という。)は、昭和五〇年八月二八日、訴外日和信用組合(以下「訴外組合」という。)と手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾その他の信用組合取引を開始することとして、訴外組合との間において、信用組合取引基本契約を締結し、被告は、昭和五一年六月三〇日、訴外組合との間において、訴外会社が右信用組合取引基本契約に基づく取引によって訴外組合に対して負担する債務につき、訴外会社と連帯してこれを保証する旨を約した。

2  訴外会社は、前記信用組合取引基本契約に基づいて、訴外組合から、次のとおり金銭を借り受けた。

(一) (本件消費貸借契約1)

(1) 借受年月日 昭和五三年五月三一日

(2) 借受元本額 一〇〇〇万円

(3) 同返済方法 昭和五三年九月から昭和五六年三月まで毎月末日限り各三〇万円宛を、同年四月末日限り七〇万円を返済する。

(4) 利息の割合・支払方法 利息の割合を年八・五〇パーセントとし、毎月末日限り翌月分の利息を支払う。

(5) 特約 訴外会社が右元本の返済又は利息の支払いを一回でも怠ったときは、当然に直ちに右元本の返済についての期限の利益を失い、訴外会社は訴外組合に対して、残元本及び利息につき、期限の利益を失った日の翌日から支払い済みに至るまで年二五・五五パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

(二) (本件消費貸借契約2)

(1) 借受年月日 昭和五三年六月一九日

(2) 借受元本額 三〇〇〇万円

(3) 同返済方法 昭和五三年九月から昭和六〇年四月まで毎月末日限り各三五万円宛を、同年五月末日限り二〇〇万円を返済する。

(4) 利息の割合・支払方法 利息の割合を年一〇・五〇パーセントとし、毎月末日限り翌月分の利息を支払う。

(5) 特約 訴外会社が右元本の返済又は利息の支払いを一回でも怠ったときは、当然に直ちに右元本の返済についての期限の利益を失い、訴外会社は、訴外組合に対して、残元本及び利息につき、期限の利益を失った日の翌日から支払い済みに至るまで年二五・五五パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

3  訴外会社は、昭和五一年九月二九日、前記信用組合取引基本契約に基づいて、訴外全国信用共同組合連合会(以下「訴外連合会」という。)を委託金融機関、訴外組合を受託金融機関とする代理貸付により、訴外連合会から三〇〇〇万円を次のとおりの約定で借り受けた(この消費貸借契約を以下「本件消費貸借契約3」という。)。

(1) 元本返済方法 昭和五二年四月から昭和五六年七月まで毎月末日限り各五五万円宛を、同年七月末日限り一四〇万円を返済する。

(2) 利息の割合及び支払方法 利息の割合を年一〇・五〇パーセントとし、毎月末日限り当月分の利息を支払う。

(3) 特約 訴外会社が右元本の返済又は利息の支払いを一回でも怠ったときは、当然に直ちに右元本の返済についての期限の利益を失い、訴外会社は、訴外連合会に対して、残元本及び利息につき、期限の利益を失った日の翌日から支払い済みに至るまで年一四・六〇パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

訴外会社は、昭和五一年九月二九日、前記信用組合取引基本契約に基づいて、訴外組合との間において、本件消費貸借契約3につき、訴外会社を委託者、訴外組合を受託者とする信用保証委託契約を締結し、訴外組合が訴外連合会と保証契約を締結して本件消費貸借契約3に基づく債務を訴外連合会に弁済したときは、訴外会社は、訴外組合に対して、直ちにその弁済金及びこれに対する弁済の日の翌日から支払い済みに至るまで年一四・六〇パーセントの割合による遅延損害金を支払う旨を約した。

そして、訴外組合は、右の頃、右信用保証委託契約の履行として、訴外連合会との間において、訴外会社が本件消費貸借契約3に基づき訴外連合会に対して負担する債務につき、訴外会社と連帯してこれを保証する旨を約した。

4  ところが、訴外会社は、昭和五四年五月三一日までには、本件消費貸借契約1の元本一八〇万円及び右同日までの利息、本件消費貸借契約2の元本二一〇万円及び右同日までの利息並びに本件消費貸借契約3の元本一四三〇万円及び右同日までの利息を支払ったのみで、その余の元本の返済又は利息の支払いを怠ったので、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2については遅くとも右同日の経過によって、本件消費貸借契約3については遅くとも同年六月末日の経過によって、前記各期限の利益を失った。

5  訴外組合は、昭和五五年一月三一日、前記連帯保証契約に基づいて、訴外連合会に対して、本件消費貸借契約3の残元本一五七〇万円並びに右同日までの利息及び遅延損害金一一三万八九一八円の合計一六八三万八九一八円を支払った。

6  ところで、原告は、昭和六三年四月一日に訴外組合と合併して、同日その旨の登記をした。

7  よって、原告は、被告に対して、本件消費貸借契約1の残元本七七万二八八一円(ただし、前記の既払額及び昭和五六年一〇月二日に支払いを受けた不動産任意競売による配当金七四二万七一一九円を控除したもの。)及び残元本八二〇万円に対する昭和五四年六月一日から昭和五六年一〇月二日までの間の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金三五〇万五五〇〇円から平成元年四月一一日に支払いを受けた不動産任意競売による配当金六四万一八六九円を控除した残額二八六万三六三一円、本件消費貸借契約2の残元本二四九〇万円(ただし、前記の既払額、昭和五五年四月二二日に返済を受けた二〇〇万円及び同年五月二七日に返済を受けた一〇〇万円を控除したもの。)並びに本件消費貸借契約3についての弁済金一六八三万八九一八円の合計四五三七万五四三〇円、本件消費貸借契約1の右残元本七七万二八八一円に対する期限の利益の喪失後の日である昭和五六年一〇月三日から、本件消費貸借契約2の右残元本二四九〇円に対する期限の利益の喪失後の日である昭和五五年五月二八日から、各支払い済みに至るまで年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金、本件消費貸借契約3の残元本についての弁済金一五七〇万円に対する弁済の日の翌日である昭和五五年二月一日から支払い済みに至るまで年一四・六〇パーセントの割合による遅延損害金の各支払いを求める。

二  請求原因事実に対する被告の認否

1  請求原因1の事実は、認める。

2  同2の事実は、否認する。

もっとも、訴外会社が訴外組合から金銭を借り受けたことはあるが、原告主張のような内容のものではない。

3  同3の前段及び中段の事実は否認し、後段の事実は知らない。

4  同4の事実中、訴外会社が原告主張のような元本の返済又は利息の支払いを怠ったことは認める。

5  同5及び6の事実は、知らない。

三  被告の抗弁

1  (債務免除)

訴外組合は、昭和五六年頃、訴外会社との間において、本訴請求にかかる債務の一部の弁済に代えて、訴外山田高旦の所有名義で実質的には訴外会社の所有であった千葉県香取郡大栄町伊能字唐毛作一三一八番一雑種地九三七メートルの所有権を訴外組合に移転すること、被告所有の東京都三鷹市下連雀一丁目三四番一〇宅地一七一・六八平方メートル、同所三四番一二宅地二九・九七平方メートル及び同所三四番地一〇木造瓦葺二階建居宅を任意競売に付してその配当金を本訴請求にかかる債務の一部の弁済に充てること、訴外会社の訴外組合に対する預金及び積金の返還債権は本訴請求にかかる債務の一部と相殺すること、訴外組合は、訴外会社の訴外組合に対する残余の一切の債務を免除することとの合意をした。

2  (消滅時効)

訴外会社は、日用雑貨品の卸販売等を目的とする株式会社であり、本件各消費貸借契約又は信用保証委託契約は、いずれも訴外会社がその営業のためにしたものであって、商行為によって生じたものとして、商法五二二条の規定による短期消滅時効に服するものであるところ、これらの契約に基づく貸金債権又は求償金債権は、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2について訴外会社が期限の利益を喪失し、また、本件消費貸借契約3に基づく債務を訴外連合会に弁済して求償金債権を取得し、これによって貸金債権又は求償金債権を行使することができるようになって以来五年を経過したことにより、時効によって消滅したものである。

そこで、被告は、平成元年二月一三日の本件口頭弁論期日において、右消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

四  抗弁事実に対する原告の認否

1  抗弁1の事実は、否認する。

2  同2の前段の事実中、訴外会社が株式会社であることは認めるが、その余の主張は争う。

五  原告の再抗弁

1  訴外組合は、昭和五六年三月一七日、訴外会社との信用組合取引に基づく債権を担保するために被告所有の東京都三鷹市下連雀一丁目三四番一〇宅地一七一・六八平方メートル、同所三四番一二宅地二九・九七平方メートル及び同所三四番地一〇木造瓦葺二階建居宅について設定した根抵当権に基づいて、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2に基づく債権を請求債権とし、訴外会社を債務者、被告を所有者として、東京地方裁判所八王子支部に右土地及び建物について競売の申立てをし、右裁判所は、同月一八日に競売開始決定をして、その決定正本を訴外会社に送達し、同年一〇月二日に配当金を交付して、配当手続を終了した。

したがって、被告主張の消滅時効は、右競売の申立てによって中断された。

2  さらに、訴外組合は、昭和六三年六月二九日、訴外会社との信用組合取引に基づく債権を担保するために訴外会社所有の長野県北郷一九七八番一山林一二六九平方メートル及び同所一九七九番一山林一五一〇平方メートルについて設定した根抵当権に基づいて、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2に基づく債権並びに本件消費貸借契約3についての求償金債権を請求債権とし、訴外会社を債務者兼所有者として、長野地方裁判所に右土地について競売の申立てをし、右裁判所は、同年七月一日に競売開始決定をして、その決定正本を訴外会社に送達し、平成元年四月一一日に配当金を交付して、配当手続を終了したが、訴外会社は、これに対してなんら異議を唱えなかった。

したがって、訴外会社は、消滅時効の完成後に時効利益を放棄したものであり、被告は、訴外会社の代表取締役であったものであるから、信義則上、本訴において消滅時効を援用することは許されない。

六  再抗弁事実に対する被告の認否

1  再抗弁1の前段の事実は認めるが、後段の主張は争う。

2  同2の前段の事実は認めるが、後段の主張は争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求原因1の事実(訴外会社と訴外組合との間の信用組合取引基本契約の締結及び被告と訴外組合との間の連帯保証契約の締結の事実)は、いずれも当事者間に争いがない。

そして、《証拠省略》によれば、その余の請求原因事実をすべて認めることができる(ただし、訴外会社が原告主張のとおり本件各消費貸借契約の元本の返済又は利息の支払いを怠ったことは、当事者間に争いがない。)。

被告は、本件消費貸借契約2は、かねて訴外組合と取引関係にあって当時倒産した訴外株式会社アリタの訴外組合に対する三〇〇〇万円の債務を肩代わりして訴外会社が借りたことにしてほしいとの当時の訴外組合の代表理事春日二郎からの依頼を受けて、これに応諾したものに過ぎず、現実に訴外組合と訴外会社との間において原告主張のような金銭の貸借があったものではないと供述するけれども、前掲甲第九号証(本件消費貸借契約2についての借入金申込書である同号証によれば、訴外会社は、その長期運転資金として右借入金の申込をしている。)及び前掲証人金子健二の証言に照らして、直ちにこれを信用することができないばかりか、借主が第三者の債務を肩代わりし、その金額を債権者との間で消費貸借契約の目的とした場合においては、当事者間において現実に金銭の授受がなくても、それと同一の経済的価値が借主に帰属したものということができるから、それによって消費貸借契約が有効に成立したものということができるのであって、仮に被告の供述するような事実があったとしても、それだけで本件消費貸借契約2が有効に成立したものとすることの妨げとなるものではない。

二  そこで、債務免除をいう被告の抗弁についてみると、被告は、当時の訴外組合の代表理事春日二郎が訴外会社の倒産直後の昭和五四年七月又は八月頃訴外会社の代表取締役の被告との間においてその主張のような口頭による合意をして、訴外組合の訴外会社に対する債権は被告の主張する不動産についての代物弁済又は競売若しくは預金及び積金の返還債権との相殺によって回収することとし、残余の一切の債務は免除する旨を約したと供述するけれども《証拠省略》に照らすと、訴外組合が右のような段階において確定的な債務免除の合意をするとは考えられないのであって、被告の右供述を直ちに採用することはできないし、他にはこれを認めるに足りる証拠はない。

三  次に、被告は、主たる債務である本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権並びに本件消費貸借契約3についての求償金債権の短期消滅時効を援用するので、これについて判断する。

1  先ず、訴外会社が株式会社であることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、訴外会社は日用雑貨品の卸販売等を目的とするものであること及び本件各消費貸借契約は訴外会社がこれによる借入金を訴外会社の運転資金に供するために締結したものであることの各事実を認めることができる。

したがって、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権は、商行為によって生じたものとして、商法五二二条の規定による短期消滅時効に服することは明らかであり、また、訴外組合が訴外会社との間において締結した信用保証委託契約も訴外会社の営業のためにするものであり、その履行によって訴外組合が訴外会社に対して取得した求償債権も、信用保証委託契約の実質的効力範囲に属するものとして、同条の規定による短期消滅時効に服するものというべきである。

そうすると、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権は、訴外会社が期限の利益を失った日の翌日の昭和五四年六月一日から、本件消費貸借契約3についての求償金債権は、訴外組合が訴外連合会に対して代位弁済した日の翌日である昭和五五年二月一日から、それぞれ五年間これを行わないことにより時効によって消滅するものというべきである。

2  ところで、訴外組合が、昭和五六年三月一七日、根抵当権に基づき、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2に基づく債権を請求債権として、被告所有の土地及び建物につき東京地方裁判所八王子支部に競売の申立てをし、右裁判所が同月一八日に競売開始決定をしてその決定正本を訴外会社に送達し、同年一〇月二日に配当金を交付して配当手続を終了したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、物上保証人に対する抵当権の実行により、競売裁判所が競売開始決定をし、それが債務者に告知された場合には、民法一五五条の規定により、被担保債権についての消滅時効は中断されるものと解すべきであるから、本件においても、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権についての消滅時効は、被告所有の土地及び建物について訴外組合のした競売の申立てによる開始決定の正本が訴外会社に送達されたことによって、中断されたものと解するのが相当である。

次に、右の競売手続は、昭和五六年一〇月二日に配当金が交付され、終了したことは当事者間に争いがないところであるから、右のとおり中断された本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権についての消滅時効は、右競売手続の終了したときから改めて進行することとなり、右各債権は、結局、同月三日から五年を経過したことによって、時効により消滅したものというべきである。そして、先に摘示した被告の消滅時効の抗弁の主張は、右のように中断事由が終了して改めて進行することとなった消滅時効の援用をも包含するものと解釈することができる。

3  したがって、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2の貸金債権並びに本件消費貸借契約3についての求償金債権が短期消滅時効によって消滅したとする被告の抗弁は、いずれも理由がある。

四  最後に、訴外組合が、昭和六三年六月二九日、根抵当権に基づき、本件消費貸借契約1及び本件消費貸借契約2に基づく債権並びに本件消費貸借契約3についての求償金債権を請求債権として、訴外会社所有の土地につき長野地方裁判所に競売の申立てをし、右裁判所が同年七月一日に競売開始決定をしてその決定正本を訴外会社に送達し、平成元年四月一一日に配当金を交付して配当手続を終了したが、訴外会社がこれに対してなんら異議を唱えなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、これによって訴外会社が時効完成後に時効利益を放棄したものとして時効の援用権を喪失することになるとしても、その効果はあくまで相対的なものであって、連帯保証人である被告が消滅時効を援用することを妨げられることになるべき理由はなく、このことは、被告が訴外会社の代表取締役であって、訴外会社の代表者として右時効利益の放棄にかかわったとしても、なんら結論を異にするものではないと解するのが相当である。

したがって、これと異なる見解に立つ原告の再抗弁は、失当として排斥を免れない。

五  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上敬一)

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